退職金請求 よくあるご質問
- 長く勤めた会社を辞めたが、会社から「退職金は払わない」と言われた。
どうすればよいか。 - まずは、会社が支払いを拒んでいる理由を確認してください。
事情にもよりますが、退職金規定が存在して、その要件を満たす場合には、請求できる可能性があります。
会社が退職金の支払いを拒む理由は様々ですが、ここでは会社が支払拒否の理由としてよく主張する例を挙げて説明します。
●理由その1 「うちには退職金の制度がない。」と言われた。
確かに、退職金は会社に勤めたから当然に支払われるものではありません。
雇用契約書や就業規則、労働協約などで支給基準が明確に定められてはじめて「賃金」(労基法11条)としての性格を有します。したがって、まずはこういった規定に退職金に関する規定がないか確認してみてください。規定が存在し、その要件を満たせば、退職金を請求できます。
規定がなくても、会社の慣行として支給されていれば会社に請求できる場合もありますが、その場合にも退職金を計算できるだけの明確な基準等が慣行となっていなければ難しいです。
●理由その2 「会社の経営が苦しいから支払わない。」と言われた。
基本的には、支払いを拒む理由になりません。
上記で述べたとおり、支給規定があれば会社は退職金を払わなければなりません。会社の経営を理由として退職金を不支給にするには、その支給規定を変更するなどの厳格な手続を踏まなければなりません。したがって、そういった手続もとらずに単に「会社の経営が苦しいから」などとして、退職金の支払いを拒否することはできません。
●理由その3 「自己都合で退職したから支払わない。」と言われた。
退職金規定には、「自己都合退職の場合には退職金を支給しない」とする規定が定められていることがあります。しかし、何をもって「自己都合退職」にあたるかを明確に定めている会社は多くはありません。
その場合、会社が一方的に判断するのではなく、退職に至った事情を総合的に判断して「自己都合退職」か「会社都合退職」かが決定されます。基本的には、会社側の事情で退職した場合には「会社都合」、労働者側の事情で退職した場合には「自己都合」とされますが、一概にそうとも言えません。最終的に労働者の方から退職の意思を示していたとしても、その過程において会社側の事情で辞めざるを得なかったと判断されれば「会社都合退職」と認定されることもあります(ゴムノイナキ事件・大阪地判平19・6・15労判957号78頁)。
そして、仮に「自己都合退職」であったとしても、そのことのみをもって退職金を一切支給しないとする規定は、無効と考えられます。労働者の解約の自由(職業選択の自由)を制約するものであり、公序良俗に反するからです。
引き継ぎ作業をしないなど会社に迷惑を掛けて一方的に会社を辞めた者の退職金を「一部減額する」との規定は許される余地がありますが、その場合にも過度の減額は無効と考えられます。
●理由その4 「懲戒解雇だから支払わない。」と言われた。
まず、①当然ながら懲戒解雇が無効であれば、会社は退職金を支払う義務があります。拒否の理由となる前提が欠けているからです。
また、仮に懲戒解雇が有効であるとしても、②退職金規程等で「懲戒解雇の場合には、退職金を支払わない」という内容の規定がなければ理由になりません。懲戒解雇からが直ちに退職金の不支給に直結するものでもないのです。
さらには、そのような規定があったとしても、直ちに全額不払いが認められるわけでもありません。判例では、③「過去の労働に対する評価を全て抹消させてしまう程の著しい不信行為」があるという場合に限り、不支給が認められるとされています(トヨタ工業事件(東京地判平6・6・28労判655号17頁、東京高判平成6・11・6労判665号45頁))。これは、業務上横領や背任などかなり悪質な場合を指しており、そこまで悪質とはいえない場合には、裁判でも一定割合の退職金請求が認容される傾向にあります。
このように、懲戒解雇の場合にも上記①〜③の事情によっては、不支給・減額が認められないことがあります。会社に迷惑を掛けて懲戒解雇されたとしても直ちに全ての退職金を不支給とする理由にはなりません。
以上が支払い拒否の典型例ですが、会社が退職金の支払いを拒否する理由は様々です。退職金規定が存在し、その要件を満たす場合には、基本的に退職金を請求できる可能性があります。判断が難しいケースは弁護士にご相談下さい。
- 非正規社員(パートタイマーや契約社員など)だが、退職金はもらえないのか。
- もらえる場合もあります。
退職金を支払うべきか否かは会社の就業規則や労働協約などの規定により決まります。したがいまして、会社の退職金規定等を確認して、規定次第では受け取れる可能性はあります。その退職金規定にしたがって金額を算定し、会社に支払いを求めることになります。
ただし、非正規社員の場合には以下の2点に注意して退職金規定を確認してみてください。
第一に、「退職金規定が正規社員と非正規社員とで区別しているか」です。退職金で正社員と非正規社員とで異なった処遇をする場合には別の取り扱いをするという規定をするか、個別に非正規社員独自の就業規則を作成する必要があります(労基法15条、同法施行規則5条)。したがいまして、規定がこれを区別していない場合には非正規社員であっても正社員と同様の支給基準で退職金を受給できる可能性があります(大興設備開発事件・大阪高判平9・10・30労判729号61頁)。
第二に、「有期契約社員と無期契約社員で不合理な差別がされていないか」です。改正労契法20条(平成25年4月1日施行)では、有期契約社員(=大半の非正規社員)と無期契約社員(=正規雇用社員)との労働条件について、不合理な差別をすることを禁じています。したがいまして、無期契約社員のみ退職金を支給したり、両者の間に著しい格差があるときなどは不合理な差別として同条違反となり得ます。その場合には、その差別規定は無効ですから、有期契約社員も無期契約社員と同様の処遇にしたがって退職金を請求すべきです。
世間では、「非正規社員だから退職金は支払う必要はない」と考えている使用者も存在します。退職金規定があるにもかかわらず、会社が退職金を支払わない場合には一度弁護士にご相談下さい。
- 退職してしばらく経つが、今から退職金を請求できますか。
- 退職後5年を経過していなければ、請求権は消滅しません。
退職金以外の賃金は2年間で時効となりますが、退職金の時効は5年間です(労基法115条)。したがいまして、退職して時間が経っていても5年を経過していなければ退職金請求権は消滅していません。
もちろん、この場合にも退職金規定の要件を満たしていることが前提ですので、請求するにあたっては退職金の根拠となる資料(就業規則、雇用契約書、給与明細書など)を確認する必要があります。したがいまして、これらの資料を入手・保管しておくことが重要といえます。